個人信託を活用したケーススタディ

個人信託を活用したケーススタディ

個人信託の契約から運用、終了までを行った場合の流れは以下の通りです。母と長男・次男が相続税対策のため現金8000 万円を活用し個人信託契約を結び、ワンルームマンション4戸を購入し信託終了後に子どもにワンルームマンションを2戸ずつ相続させるケースを考えてみましょう。

① 信託設計…母から息子2人に相続税評価額を下げながら、生前には母に家賃収入を生活費として充当し、母の死後は2人の息子に2戸ずつワンルームマンションを相続させる。

② 当事者及び関係者への説明と賛同…信託監督人を選出し、母、息子2人とその関係者を集め、賛同を得る。委託者と受益者は「母」、受託者は「長男」とし、個人信託の合意を得る。

③ 信託契約公正証書作成…公証人役場で、信託契約書の署名押印を行う。この場合、弁護士や司法書士が専門なので、作成を依頼することも検討する。

④ 信託口座の開設…委託者を「母」とし、受託者を「長男」にし信託口座を作成する。

作成後は、現金8000 万円を信託口座に入金する。受託者である「長男」は、ワンルームマンション4戸を購入し、その代金を信託口座の8000 万円から支払う。

⑤ 信託運用…受託者である「長男」は、ワンルームマンションの管理・運用を行い、受益者である「母」にワンルームマンションから入る家賃を信託口座から、母の口座へ送金する。

⑥ 信託終了…委託者である「母」が亡くなり、受益権が「長男」と「次男」にそれぞれ相続される。今回のケースは、「長男」と「次男」にワンルームマンションを2戸ずつ相続することが目的なので、「長男」と「次男」にワンルームマンションの相続登記が完了した段階で、信託終了事由も達成したので信託契約も終了し、その後は息子2人がそれぞれ自分の裁量でワンルームマンションを運用し収益を得る。

ワンルームマンションを活用した事例としては、このような流れになります。今回は、分かりやすく少ない金額での事例を紹介しましたが、もちろん金額を増やし、物件数を増やしての対策も可能で

す。

ここで、注意すべき点は受益権の相続で、受益者が死亡した場合、信託に定めがなければ受益者の死亡により受益権は受益者の相続人に相続され、受益権を取得した相続人が受益者となります(上の図参照)。税制上は、受益権を相続して受益者となった相続人が、死亡した受益者から信託財産そのものを相続したものとして相続税の対象となります。

このように多くのメリットがある個人信託ですが、当然デメリットにも注意しなければなりません。

個人信託のデメリットは、以下の通りです。

①損益通算ができない

信託財産の中に収益不動産がある場合、信託財産から生じる不動産所得にかかる損失は、なかったものとみなされます(租税特別措置法第41条の4の2)。つまり、信託財産たる不動産に関する損失は、信託財産以外からの所得と損益通算することや純損失の繰り越しをすることはできませんので注意が必要です。また、信託契約を複数に分けた場合も、それぞれの信託契約をまたいだ損益通算はできません。

②個人信託を組むこと自体の節税メリットは無い

個人信託は、あくまで目的達成のための手段ですので、組むこと自体が節税になりません。

もちろん、《資産承継の指定(遺言代用)》の機能がありますので、個人信託を設定しただけで資産承継についての安心感は得られるかもしれませんが、信託の持つもう一つの機能としての《財産管理》は、信託の契約締結によりスタートなのでゴールではありません。

人によっては、個人信託組成後に不動産を売却したり、買い換えたり、アパートを建築したり、収益物件を購入したりして保有資産の組み替えをし、結果として相続税対策を実行することはありますが、個人信託を組むだけでは税務メリットが生じないことを理解しましょう。つまり、節税対策をしたい人が、信託を組むだけでは効果がありません。認知症による資産凍結対策、資産凍結回避の先にある相続税対策や空き家対策、共有不動産の争族回避などのニーズに応えうる手段だという理解が必要です。

③専門家のコンサルティング報酬がかかる

当たり前のことですが、専門家に相談するので相談料はかかります。しかし、成年後見や遺言などすべてをその都度実施するより、費用対効果としてみれば安い場合もありますので、個人の資産により受けられるメリットを考えて利用しましょう。

④税務申告の手間が増す

資産の一部又は全部を信託財産に入れた場合、そこから年間3万円以上の収入がある場合は、信託計算書・信託計算書合計表を税務署に提出しなければなりません(法律上は、前年分を毎年1月31日までに提出すべしとなっています)。

また、毎年の確定申告の際、信託財産から不動産所得がある人は、不動産所得用の明細書の他に信託財産に関する明細書を別に作成して添付する必要があります。これらの手間は増えますが、毎年の確定申告を税理士にお願いしている人の負担はほとんど変わりません。

⑤長期間、当事者を拘束する

信託の持つ機能としての《資産承継の指定(遺言代用)》、詳しく言うと「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」として1次相続だけでなく、2次相続以降の財産承継者まで自分1人で決定できるという画期的な機能が信託にはあり、相続関係が複雑な家庭(前妻と後妻との間に子がいるケース)などの資産承継では、この機能が大きな効果を持つ可能性があります。

一方で、何世代にもまたがり長期にわたり資産の処分に制限をかける可能性もあり、かえって争族や不測の事態を誘発しかねないリスクがあるのも事実です。

20年、30年先を見据えた個人信託の設計には、通常以上の熟慮と親族関係者への想いの伝達・共有・納得が必要になります。あまりに複雑な家庭の場合、相続を選択し早めにトラブルの芽を摘んだ方がよいでしょう。

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