認知症とお金「預金を引き出せない」それでも生活は続く

成年後見制度 不動産

9月上旬、埼玉県に住む男性(51)は地方銀行の窓口で83歳の母親の口座から4万円を引き出し、肺炎で入院中の母に届けました。男性の母親は認知症を患っています

母は夫を亡くした7年前から1人暮らしで、6年前に成年後見制度の利用を始めました。成年後見制度とは本人の判断能力の程度により「後見・保佐・補助」の3類型に分かれる制度で、家庭裁判所は近くに住んでいて母の面倒を見られる可能性が高い男性を「補助人」に選びました。

「補助」は母に一定の判断能力があると認定するもので、本来、本人が預金を引き出すことができると定義されています。ところが銀行の行員が制度に詳しくなく、母自身の引き出しは断られたのです。

「自分の口座なのに説明もなく使えないと言われた」。母は今も時折、思い出しては病床で怒りを露わにします。ネットバンキングの利用を止められ、目の前でキャッシュカードをハサミで切られた光景が消えることはありません。

それだけではない。銀行が補助人用のカードを発行してくれないので、男性は大学の常勤講師をしていた2年前まで、銀行に出向く日は毎回仕事を休まざるを得ませんでした。「金融機関は認知症を一概にくくらず、きめ細かい対応をすべきだ」

第一生命経済研究所の試算では、認知症患者が保有する金融資産は2030年度に現在の約1.5倍の200兆円に達します。横領を警戒する銀行は認知症患者の口座を凍結してしまうので、このままでは使われずに塩漬け状態になる資産が膨れ上がる危険性があります。

認知症などで判断能力が低下した高齢者の財産を守る後見人制度は、こうした問題の解決策の1つのはずなのですが、今の制度は使い勝手が悪く、それを扱う現場は「綱渡りの連続」というのが実態です。

東京都品川区。元城南信用金庫職員の男性(71)と女性(62)は、身寄りがなく、親族に後見人のなり手がいない高齢者を支援しています。5つの信金でつくる一般社団法人「しんきん成年後見サポート」の後見担当として、法人が後見人になった高齢者の後見実務を担っています。

2人は1年半ほど前にチームを組み、月に1度、高齢者を訪ねて生活資金の残額を聞き取り、翌月の生活費との不足分を手渡し、立て替え分を高齢者の口座から引き出すということを基本的な仕事としています。

複数の金融機関に口座を持つ高齢者が亡くなる場合に備えて資産を集約しておこうにも「本人ではない」と取り合ってくれない金融機関があり、業務は難航します。

生活資金が底をつきそうになり、自宅を売却して資金を確保しなければならないケースもありますが、不動産の売却も一筋縄ではいかないのが現実です。

今担当している男性は、関東に住んでいるはずの姪に自宅を売る相談の手紙を出してはいるものの「連絡が付かない状態が続いている」。男性に万が一のことがあれば、相続の問題が待っています。このままでは空き家状態になる公算が大きいにもかかわらず、打つ手がありません。

意思確認ができない高齢者の資産が塩漬けになれば、本来、事業や投資に回るはずの土地やお金が生かされず、逆に日本経済の重荷になってしまいます。こうした未来図を回避する一つの手は信託の仕組みを使いこなすことです。

9月末、東京都内に住む62歳の男性は、アパートの家賃収入計約30万円が入金されていることをネットバンキングで確認しました。

近くに住む88歳の父と2017年5月に民事契約を結び、築20年ほどの一軒家と定期預金・都内に所有するアパート数棟を信託財産とし、父に代わって家賃収入などの管理を手掛けています。

「父が認知症になってからでは施設に入居させたくてもアパートを売却できないかもしれない」。一定の手間がかかる信託契約をあえて結んだのは、こんな危機感からでした。

健康でアパートを自ら管理していた父に信託財産とする計画を持ちかけた当初、父親は「自分で全部できているのにそんなもの必要なのか」といぶかしみました。男性は資料を作成するなどして、半年ほどかけて説得しました。

公正証書の作成や税理士への相談費などに約100万円を支払い、自分に万が一のことがあっても妻や息子に引き継げる契約内容にしました。「説得の努力や制度の勉強は大変だったけど、こんな安心感はない」と満足しています。

 

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