相続改正 自宅売却せずに“争続”回避へ

昨今、住宅の住み替え需要の主軸が高所得の高齢者に移る中、マイホームの残し方についてお悩みをお抱えの方も増えているのではないでしょうか。

「自分が死んだあと自宅がどうなるのか、妻が住み続けられるのか不安だったが、制度が変わることで少し気持ちが楽になった」

東京都の会社員、Aさん(58)は、そう言って安堵の表情を浮かべました。Aさんは20代の頃に離婚し、それから程なく現在の妻と再婚。
前妻との間に子どもが1人いますが、現在の妻とは子宝には恵まれませんでした。

現在、Aさんは定年を前に妻との老後を見据え、より住みやすいマンションの購入を検討中です。

「平均寿命から言えば、妻の方が自分よりも長生きする。自分が死んだ後、妻と前妻との子どもで自宅を巡る遺産争いが起き、せっかく買った自宅を売却することにならないか心配だった」

約40年ぶりに民法の相続に関する規定(通称・相続法)が改正され、来年1月より制度改革が順次スタートします。

その影響を受け、Aさんのような中高年の「終の住み処」選びの心構えに変化が起きています。

税理士法人レガシィの田川統括パートナー税理士によると、「その趣旨を簡単に言えば、配偶者の権利拡大で居住権を確保しつつ、より多くの金融資産を配偶者に与えるということ」で、自宅の扱い方を変えることで配偶者の保護は図られます。

■“争続”の原因自宅の分け方が大きく変わる

上図に改正の概要として5つのポイントを示しました。中でも「相続を巡る自宅への価値観を大きく変える」として注目を集めているのが、「配偶者居住権」の新設と、結婚20年以上の夫婦を対象にした自宅贈与の“優遇措置”です。

上図のように、不動産は日本人の相続財産のおよそ半分を占め、遺産を巡る家族の争い、いわゆる「争族」の元になってきました。

その不動産の扱いが一変する内容をご紹介いたしますので、ぜひこの機会にお目通しください。

 

下の図は、配偶者居住権の新設による遺産分割の具体例を解説したものです。

評価額4000万円の自宅と預貯金2000万円を残して夫が亡くなったケースで詳しく見ていきましょう。

相続税法改正

法定相続人が配偶者である妻と長男、長女の3人だったとすると、法律で決められた相続分は妻が2分の1、長男と長女は4分の1ずつという配分になります。

改正前の相続では、自宅と預貯金を合わせた6000万円を相続比率で分割することになります。この場合、妻が3000万円、子どもたちは1500万円ずつということになります。

妻が4000万円の自宅を相続した場合、法廷の取り分である3000万円を上回ってしまう上、長男・長女に1500万円ずつ渡そうとすると、500万円ずつ不足してしまう計算になります。

家族仲が良好で、長男・長女がそれで納得すれば問題ありませんが、子どもが1500万円をきっちり現金で受け取りたいと主張して譲らない場合、自宅を売却して現金化しなければなりません。

配偶者居住権は、そうした遺産を巡る争いによって、残された妻が住み慣れた家を失う事態を防いでくれます。

その仕組みは以下の通りです。

財産上、自宅を「居住権」と「所有権」(財産価値を2000万円ずつと仮定)に分け、居住権を妻に、所有権を長男や長女に分割します。

これにより、妻は自宅を売却することなく住み続けることができ、なおかつ預貯金の1000万円を老後資金として確保することが可能になります。

自宅の居住権と所有権の価値は法務省が公表している「簡易的な評価方法」で計算することができます。

法定利率を3%とした上で、相続発生時における配偶者の平均余命(簡易生命表を活用、居住権を終身などに設定)、自宅の築年数などを基にした計算式です。

計算式は簡易的と言いながらかなり複雑ですが、配偶者の年齢が若ければ若いほど、居住権の金額が大きくなる設計になっています。

自宅が木造の戸建で残された妻が60代後半の場合、居住権と所有権の価値がおおむね半々になるイメージになります。

配偶者が70代など高齢になれば、居住権の価値がかなり低減するため、その分、預貯金などの現金を法定相続分として確保できることになります。

続いて、結婚20年以上の夫婦に対する“優遇措置”についてご紹介していきます。

現状では、夫が自宅を妻に生前贈与または遺贈(遺言による贈与)したとしても、自宅は遺産分割の対象になります。そのため、先の事例のように長男、長女が取り分を現金でもらうことを主張すると、自宅の売却を迫られてしまいます。

改正後は、結婚して20年以上が経過していることを条件に、贈与した自宅は遺産分割の対象外にすることが可能となるため、自宅以外の財産が預貯金のみであれば、その預貯金を法定相続分として分けるだけで済むのです。

ただ、ここで注意したいのは妻が亡くなったときのいわゆる「二次相続」です。一次相続の際に自宅が遺産分割の対象外となったことで、妻が持つ財産が自宅と預貯金を合わせて5000万円と、相対的に大きくなってしまっているのです。

そもそも二次相続では、配偶者に認められているさまざまな優遇措置が利用できないため、相続税の評価額が大きくなりがち。

その状況で多額の相続財産が発生した場合、子どもの相続税負担が自宅贈与をする前に比べて重くなる可能性が多分にあるのです。

ともすると、一時相続で決着をつけるべき争いを、二次相続に先送りしただけということにもなりかねず、贈与後の影響や親族間の関係を慎重に見極めた上で活用した方が良いでしょう。

今回の民法改正は、配偶者の権利拡大という側面が大きい一方で、親族間の無用な争いにつながる火種が生じないようにするという狙いも透けて見えています。
相続における最低限の取り分となる「遺留分」を現金化(金銭債権化)する措置は、まさにそういえるでしょう。
子どもが遺留分を主張するようなケースでは、例えば預貯金が少ないがために、結果的に買い手のつかないような自宅の所有権を分け合うようになるパターンが多いのです。複数の相続人による自宅の共有は、「争族」に陥る典型的な事例です。
そのため、今回の改正では遺留分については現金で受け取るようにし、すぐに支払いが出来ない場合は、裁判所が一定の猶予を与える形に見直されています。

また、義父母の長年の介護という「争族」を生みやすいケースも、見直されることになりました。
現状の民法では、息子や娘など相続人による親の介護に対しては「寄与分」として相続財産の”上乗せ”を認めていますが、息子の妻など相続人以外が介護をした場合については想定がありませんでした。
今後は、息子の妻が義父母の介護(療養看護)をしたような場合、「特別の寄与」として相続人に対し、金銭の請求ができるようになります。義父母と同居することへの抵抗感を一定程度、和らげる効果があるといえそうで、二世帯住宅への建て替えも後押しするのではと見られています。

元来、相続税評価額と時価の乖離を利用した不動産購入による相続税の節税は、王道中の王道。タワーマンションの高層階を購入し、賃貸に回す「タワマン節税」はその典型で、目下のタワマン需要を支えてきました。
一方、来年からの新たな相続の在り方は、そうした金銭面はなく、いかに自分の死後も配偶者が住み続けられる「終の住み処」を選ぶべきかという意味で、自宅への価値観を変える制度変更といえそうです。

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