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相続を円滑に進める仕組み「個人信託」を うまく活用しよう
■「成年後見制度」の活用は資産運用の終焉を意味する
いざ、相続が発生した時に一番困るのが資産の凍結です。
平成28年12月の最高裁の判例で、預貯金は遺産分割の対象になりました。
これまで相続人は、理論上において法定相続分の預貯金をすぐに引き継ぐことができたのです。
しかし、今後は、相続人が1人だけの場合か遺言書がある場合を除いて、遺産分割協議が調わないかぎり、預貯金をどの相続人がどれだけ取得するかを決められなくなります。
これにより、金融機関は、法定相続分にしたがった払い戻しが続けられなくなってしまいました。
この判例により、親の死をきっかけに親の資産が、遺産分割協議を完了するまでの間、凍結されてしまうケースが増えるということです。
多くの人は生涯にわたり自分で財産管理や相続税対策ができると思っていますが、判断能力低下により成年後見が必要になった場合、資産管理が自分ではできなくなります(上図参照)。
つまり、判断能力低下後は、相続税対策ができないことはもちろん、遺言書の作成もできません。
これが、相続税対策を早めに行わなければならない理由の1つです。
判断能力が低下した人が、契約行為を行うと本人はもちろん、その家族や契約の相手先に不都合が生じます。
そういった契約上のトラブルを回避するために設けられた制度が、成年後見制度です。
成年後見制度とは、精神上の障害(認知症・知的障害・精神障害など)により、判断能力が欠けていることが通常の状態にある人を保護・支援するための制度です。
この制度を利用すると、家庭裁判所が選任した成年後見人が本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為を実施したり、本人または成年後見人が、本人がした不利益な法律行為を後から取り消すことができます。
つまり、親の判断能力が低下するまでの間に相続税対策をすることが必要で、ある意味、判断能力が低下し成年後見などをつけた段階で、親の資産が凍結するといっても過言ではありません。
成年後見人の役割としては、名古屋家庭裁判所のホームページに以下のように記載されています。
Q 成年後見人等に選任されたら,具体的にはどのような仕事を行うのですか。
A まずは、本人の財産の状況を明らかにし,本人の預貯金、有価証券、不動産、保険などの内容を一覧表にした「財産目録」を作成し、家庭裁判所に提出します。
また、本人の生活のための費用を本人の財産から計画的に支出するため、本人の収入、医療費や税金などの決まった支出を把握して収支の予定を立て、「本人収支表」を作成します。
日常の財産管理においては、本人の預金通帳などを管理、保管し、本人の財産からの支出を金銭出納帳に記載し、領収書を一緒に保管しておき、その使途を明確にしておく必要があります。
また、必要に応じて、介護サービスの利用契約や、施設への入所契約などを、本人に代わって行います。
そして、家庭裁判所又は監督人から求めがあれば、成年後見人等は、財産目録、本人収支表に通帳コピー等の財産資料を添付して、家庭裁判所又は監督人に財産管理状況を報告します。
Q 成年後見人等に選任されたら,本人の不動産に担保を設定し,金を借りることができますか。
A 成年後見人等は、本人のために、本人の財産を適切に維持し管理する義務があります。
そのため、一般的に本人の利益を損なうような、以下のような行為は原則として許されません。
本人を借金の保証人にしたり、本人名義の不動産に担保権(抵当権)を設定したりすること。
元本割れのリスクを伴う金融商品を購入するなど、財産を投機的に運用すること。
成年後見人等やその親族に対し、本人の財産を贈与・貸付するなど,本人以外の者のために財産を使用すること。
Q 仕事は,いつまで続くのですか。
A 本人が死亡又は本人の能力が回復するまで続きます。
申立てのきっかけとなった、例えば「保険金を受け取る」とか、「遺産分割をする」といった手続が終了したとしても,成年後見人等の仕事が終わるわけではありません。
また,成年後見人等の仕事をしている間は、家庭裁判所による後見監督を受けます。よって、家庭裁判所からの求めがあれば,成年後見人等は家庭裁判所に対して後見等事務の報告をする必要があります。本人の財産を使い込む等、不適切な後見等事務をしたことが確認された場合、その内容の程度によっては、後見人等を解任され、損害賠償、業務上横領等の民事上、刑事上の責任を問われる場合がありますのでご注意ください。
成年後見制度のメリットは、判断能力の低下による詐欺被害や金銭トラブルを未然に防げることですが、成年後見制度のデメリットは、資産保護の観点が強すぎて財産の運用ができないことです。資産運用ができなければ相続税対策も、実家の処分も、現金を不動産に換えることもできません。また、相続税対策において貸家を組み込んだ場合、入居者との賃貸借契約や原状回復時のリフォーム契約など、本来必要である契約行為の手続きが煩雑になるデメリットもあります。このような制約の多い成年後見制度に代わり、今注目されているのが「個人信託」です。