認知症対策に「家族信託」
家族信託って投資信託のようなもの?
信託というと投資信託のイメージが強いですが、家族信託は金融商品ではありません。
財産を信頼できる家族に託して自分の代わりに管理してもらう契約のことを「家族信託」と言います。
家族の間で正式な契約書を交わし、定期預金を引き出したり、家を売ったりすることが出来るようになる契約で、両親や祖父母が元気なう内にしておく認知症対策として注目されています。
家族の間でわざわざ契約は必要なのか?
認知症になると判断能力を失ったとみなされて金融機関で預貯金を引き出したり、自宅を売却したりできなくなってしまいます。暗証番号を知っているからといって、家族がATMから引き出してはいけません。窓口での対面取引も、原則として応じてもらえなくなります。
どうしても預金を引き出す必要がある場合、家族などが家庭裁判所に申し立て、本人に代わって財産を管理したり、老人ホームの手続きをしたりする「成年後見人」を決定します。2017年の申立件数は2万7798件で、前年比で3.6%増えました。申し立ての動機はやはり「預貯金などの管理・解約」が最多でした。
成年後見人を選ぶのは家庭裁判所で、家族を候補者として申請しても、家裁の判断で弁護士、司法書士などの専門家に決定することが多く、その後の申し立ての取り下げはできない上、専門家への報酬が毎月数万円発生ようになってしまいます。
成年後見人の役目は「認知症になった本人の財産や日々の生活を保護すること」のため、相続税対策には関与しません。
なぜなら、相続税は相続を受けた子供や孫が納めるもののため、本人の保護と直接の関係はないのです。
その点、事前に家族信託契約を結んでおけば、相続を視野に入れつつ、本人の財産をもっと上手に管理できるようになります。
認知症対策としての家族信託
家族信託の契約は、自分の財産を託す「委託者」、託された財産を管理する「受託者」、信託財産からの利益を受け取る「受益者」の3者で構成されます。
認知症対策の場合、委託者と受益者が同一人物というパターンになります。
【例】
認知症になるのが心配な父が委託者の場合、財産を託される受託者は子どもになります。
受託者が子どもになると、財産の名義が子どもになり、管理することになります。もし父が認知症になった場合、財産から利益を受け取る受益者も父、ということになります。信託した財産から利益を受け取るのは父のため、子どもに名義を変更しても「贈与」にはなりません。
不動産の登記簿では「信託」目的で子どもに所有権を移転させ、子どもだけの判断で家を売れるようにします。売却時に譲渡所得が出た場合、課税されるのは「父」になります。
どの財産を信託するかは契約書に具体的に書いておくようにしましょう。銀行の口座番号を書いておけば、後からその口座に入金して信託財産を追加することもできます。
認知症になった父が亡くなる場合を想定して、受益者としての父の地位を継ぐ「第2受益者」を指定しておきましょう。
例えば父に代わって母が受益者となって契約が続いた場合、財産の名義は子どもであっても、そこから利益を受け取る受益者は母のため、相続税は母が納めることになります。
委託者の地位を受益者とセットで動かす契約にしておけば、母が新しい委託者になって母の財産を追加できるようになります。一方、相続で委託者が増えると権利関係が複雑になってしまうので、委託者の地位は相続されないと決めておくのも選択肢の1つです。
家族信託の相談はどこですればいい?
一部の弁護士、司法書士、税理士が相談に乗っています。
コンサルティング料の相場の目安は、信託財産の1%前後で、このほかにも契約書を公正証書にするのに数万円の費用が発生します。
信託の不動産登記には、土地は固定資産税評価額の0.3%、建物は同0.4%の登録免許税と、司法書士の報酬が数万円かかります。自宅を売って老人ホームの費用にしたい人や積極的な相続税対策をしたい人の潜在ニーズは大きいようです。